ファーストキスは暗闇の中で

 真昼間から従兄の部屋でふとんをかぶって、僕はなにをしているんだろう。そう思いながらも、僕は真彦の手を拒めずにいた。
 真彦の筋張ったごつごつした指が、僕のくちびるにやさしく触れる。軽く輪郭をなぞられるだけで、僕は身体を震わせてしまう。どうしたんだろう、僕の身体。熱があるわけでもないのにひどく熱くて、なんだか変な感じがする。
 ふとんの中なのがいけないのかな。従兄とふたりきりで、息をひそめてるから――だから、そう思うのかな。よく、わからない。
「恭一、静かにしてなきゃいけないよ」
 真彦がささやく。僕は小さくうなずいた。
「声を出したら見つかっちゃうからね」
「うん……」
 どうして見つかったらいけないのか、見つかったらどうなるのか、僕には全然わからない。でも、真彦のことばは魔法の呪文みたいに僕の身体にしみわたって、僕を従わせてしまう。
「大丈夫だから。安心していい」
 きし、とベッドが音をたてた。真彦が覆いかぶさってくるのが、感触でわかる。手足を押さえつけられてる。そんなことしなくたって、ぼくは逃げやしないのに。
 頬に、真彦の吐息がかかる。なんだかくすぐったい。僕は声を上げたくなるのをこらえて、もれそうになった吐息をのみこんだ。
「……怖い?」
「怖く、ないよ」
 だって、真彦はいつだって、僕の本当にいやがることはしないもの。それがわかってるから、怖くない。
 真彦が笑った気配があった。
 頬にあたたかい、濡れたものが触れる。
 軽く吸われてはじめて、僕はそれが真彦の舌だってことに気がついた。
 なんだか変な感じだ。どうしよう。熱くて、とろけそうな気分。頭がくらくらしてる。ここが明るいところだったら、きっと世界は回ってる。
「動かないで」
「……うん」
 真彦のくちびるが離れていく。濡れたところが空気にさらされると、少しだけ、寒かった。
 まるで子供にするみたいに、真彦が僕の額をなでる。なんだか力が抜ける。幸せな、気分、っていうのはこういうものなんだろうな、と思った。
 ふ、と鼻先に息がかかって、そのあとすぐにくちびるが塞がれた。
 息苦しくて、僕はあえいだ。でも真彦は離してくれない。目の端に涙がにじんだ。
「鼻で息をすればいいのに」
 言われて気づいて、僕はちょっと情けない気分になった。
 子供、って思われたかな。だったらイヤだな。僕は真彦に子供扱いされるのが一番嫌いなんだもん。他の誰に子供扱いされてもいいけど、真彦にされるのは、イヤだ。僕の好きは子供の好きじゃないんだって、わかってもらえなくなるからイヤだ。
「なにも泣くこと、ないのに」
「だって……」
 絶対、真彦、僕のこと、子供だって思ったでしょ?
 そう思ったら涙が出てくるんだからしょうがないよ。だってそれくらい、好きなんだもん。
 真彦はため息をつく。吐息が僕の前髪を揺らした。
「泣くなよ」
 くちびるを舌でなぞられる。なんだか背筋がぞくぞく、した。
「だって……」
「だって?」
「……嫌いにならない?」
「ならないよ」
「子供でも? 男の子でも?」
「嫌いになったりしないって」
 へんな奴だなあ、と、真彦が僕の歯列をなぞる。僕はどうしたらいいのかわからなくて、歯をくいしばって目を閉じた。
「好きだよ、恭一」
「本当に?」
 声を出した瞬間、真彦の舌が僕の口の中へすべりこんでくる。歯の裏や舌の先をつつかれる。
「嫌いだったらこんなことできないよ」
「うん……」
 それもそうだ。
 僕だって、今、僕を押さえつけてるのが真彦じゃなかったら、きっと耐えられない。真っ暗な中で、相手が誰なのかもわからなくて、すごく怖いんじゃないかと思う。
 真彦だってきっと同じで、どこの誰ともわからない男の子相手にキスしたり身体触ったり、できない、んだろうなと思った。
 僕は目を開けて、ふとんの端をちょっと持ち上げた。ひかりが入ってくる。
 薄明るくなった闇の中で、真彦の目が光った気がした。僕は真彦の目をじっと見つめて、自分から真彦の舌に自分のそれを、からめた。